韓非子は「人は利益で動く」という 何事もお金目当てが中国の現実?

 

「全社員営業という考え方で業務部門も総務部門も営業活動に頑張ってください」と、あるとき営業部門以外の社員を対象に、社内セールスキャンペーンを始めました。

例えば、総務部の社員が取引業者を通じて新規顧客を開拓する、というふうに本来業務をこなしつつ、営業にも寄与するという日本でよくやる方法です。

意気込んでスタートしましたが、笛吹けども踊らず、成果が出ないどころか、彼らはほとんど反応しませんでした。何故?

 

 

▮損得勘定ばかり

好景気に沸いていた当時の中国マーケットでは、まるで入れ食い状態。営業員を増やせば増やすほど業績も向上するというふうに、右肩上がりが顕著な経済発展を続けていました。

しかし、人を増やせば当然のことながらその分の人件費が増加します。ただでさえ、給与水準が年々高くなっていましたので、人件費の伸びと業績のバランスを考えれば、そう簡単には人は増やせません。

営業パワーを現状のままで、業績を今以上に延ばすにはどうすればよいか、そこで考えたのが営業部門以外の社員を営業活動に参画させる「全社員営業」施策でした。

現有の勢力で業績を今以上に伸ばすことができればそれに越したことはありません。

 

コストをかけずに業績だけを伸ばす…中国はそんな甘い社会ではありませんでした。

中国人社員は自分の担当する仕事の範囲にはとても敏感です。営業職社員以外の社員の職掌の中には、「営業」という文字はありませんので、彼らは当然のごとく範囲外の仕事はやりたがりません。責任外のことはやりません。

 

「今月から全社員営業の考え方で頑張ってください。」と声を大きくして言っても皆はポカンとしています。みんなで協力して会社の業績を上げると皆さんの給与も上がります、と動機づけをしたのですが、とても鈍い反応でしかありませんでした。

結局、この「全社員営業」は現地社員に支持されずに失敗に終わりました。世の中、なかなか思うようにはいかないものである。

 

▮報奨金には食いついた!

ならば、ということで今度はインセンティブをつけることにしました。本来業務で成果を出してもお金にならないから動かない、という中国人社員の考え方を考慮し、成果に対応した報奨金を出すことにして、再び営業部門以外の社員向けにセールスキャンペーンを始めたのです。

 

「今月から業務部門も総務部門も、“全社員営業”の考え方で頑張ってください。成果には報奨金を出します」と号令をかけて…。

そうするとたちまち自信のある社員が動き出しました。本来業務に対してはもともとの給料がありますので、報奨金はいわば余禄。親戚や友人を巻き込んで成果を出す、気の利いた社員が何人か出てきました。給料以外にお金をゲットできるのですから眼の色が変わります。

 

ようし、これでうまくいくぞ、と喜んだのもつかの間、想定外のことが…。

何と、今度は自分の本来業務をほったらかしにして、「営業」に打ち込む者が出てきたのです。報奨金狙いです。

製菓を横取りされた営業職の社員もあり、不満がくすぶるようになってきました。

 

▮人は打算の生き物?

韓非子は「人は利益で動く」と。そんなことはない、と言いたいところですが…。

最初は、しめしめと思っていたのに、その社員自身の本来業務をほったらかしにして、営業に“打ち込む”のは会社としてもちろん本意とする所ではありません。

 

そこで再度舵を切り直すことになりました。

結局、それぞれの社員が自身の本来業務を通じて「新規顧客の開拓に貢献」するという、考えが妥当な方法であるという結論となりました。

地味でいささかインパクトには欠けますが、営業に協力した実績は年間賞与の評価に反映させるということにしました。

▮こんな“想定外”も

業務サービスを顧客に提供する部門の社員には、直接営業貢献することとは別に、彼らが顧客に提供するサービスレベルを上げて、顧客から「さすが」と言われるようなサービスを提供することを常に強調していました。

顧客を感動させるような高いレベルのサービスを提供しようという至極まっとうな戦略です。

 

そのためには彼らに対する教育が重要となります。毎月の集合教育やOJTで繰り返し指導しました。

そして、顧客から感謝状をいただいたり、ねぎらいの言葉を頂戴したときは当該社員を社内表彰し金一封も出すようにしました。

すると、今度はあろうことか社員が顧客に「ねぎらいの言葉」を要求するという、とんでもないことが発生しました。あきれるとともに一筋縄ではいかないことを痛感しました。

利益に動く人間界のドロドロから癒してくれます。(2011/04 成都)

▮薬とするか、毒とするか

結果的には、会社としての「営業業績」に営業部門以外の社員達も関心をもつことになってよかったと思います。(やや、苦し紛れですが…)

「人は利益で動く」。であるならば、「利益」を提示すれば人は動くということになります。一番の問題はその程度や仕組み。報奨金や表彰の金一封など、社内施策にお金を絡ませるときには、よく考えてやらないと思ったような結果が得られません。お金は諸刃の剣。使い方によって毒にもなるし薬にもなる、それがお金です。総経理の知恵の出し所と心得ねばなりません。

»「成功のツボ カテゴリー別記事一覧」もご覧ください。

 

 

▮中国ビジネスの成功を勝ち取る ことわざ・格言

利之所在,则忘其所恶,皆为孟賁 / 利の在る所、則ち其の悪(にく)む所を忘れ、皆孟賁(もうほん)となる

◆中国語:利之所在,则忘其所恶,皆为孟賁   [ lì zhī suǒ zài, zé wàng qí suǒ è, jiē wèi mèng bì ]

◆日本語表記:利之所在,則忘其所惡,皆為孟賁(「孟賁」とは、昔の勇者の名前)

◆出典:韓非子

◆意味:利益があるとなれば、誰でも怖さを忘れて勇者に変身する。

◆補足:人を動かしているのは仁や義、愛、名誉などではない。ただ「利」のみである。だから、利益さえ示してやれば人間を思うがままに動かすことができる。(これが韓非子の考え方。)

◆私見:この韓非子の考えには目の前の状況を見るとなるほどと思えます。しかし、いかにもドロドロしたものを感じ、私自身は同感を覚えつつも心の中では「人間、そうでもない」という思いも残してマネジメントをしていました。

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人生不如意事十之八九 / 人生、意の如くならざること、十の内八、九

▶中国語:人生不如意事十之八九   [ rén shēng bù rú yì shì shí zhī bā jiǔ ]

▶出典:晋书·羊祜传

▶意味:人生には、自分の思うとおりにならないことが、十の内八、九もある。しかし、そうであっても努力を怠らないことが大事。

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双刃剑 / 諸刃の剣

▶中国語:双刃剑   [ shuāng rèn jiàn ]

▶意味:大きな効果やよい結果をもたらす可能性がある反面、多大な危険性をも併せ持つ。

(用例:計画生育は諸刃の剣だ。良い面は人口の増加を抑制する、後年人口老齢化を招く。)

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»「現場目線で読み解く 中国のことわざ・格言」もご覧ください。

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