中国の【小康】に育った若手社員 事なかれ主義の中で成長させるには

ある時、中国地元の営業社員が私のデスクにやってきて、思いもよらないことを私に問いかけてきました。

彼は作成した当社商品の見積書を該当の見込み客に持参し商談を行うとのことでした。彼の質問とは「値引きはいくらまでならよいでしょうか?」との内容。おいおい、ちょっと待ってよ…

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無責任で軽い

いうまでもなく、掛け値なしの適正価格で積算した見積金額を、折衝する前から値引き許容範囲などある訳はありません。彼の気持はわからないではありませんが、正面からそう聞かれると、そんなものはないから精一杯努力してこい、と励まして送り出しました。

 

もし彼に△△%までならいいよ、と言おうものなら、「総経理の指示により△△%の値引きをすることで交渉しましたが、商談は成功しませんでした」と言ってくるのが落ちです、

つまり、彼は指示通りやった私には責任はありません。商談がまとまらなかった責任は正しい指示をしなかった総経理にありますと。

自分の営業力やクロージングの甘さには触れず、責任は自分にはないという日本ではあまり聞かない考え方です。

小康生活の産物

若手社員達の親世代は貧しい生活を強いられた時代に生まれ、懸命に仕事に励みマンションを購入しマイカーも手に入れ、「小康生活」を実現しました。既に衣食も足りた中流階層の子として、加えて一人っ子政策と相まって何不自由なく育った彼らにはハングリー精神は非常に希薄。彼らのモチベーションを上げることの難しさにリーダーとしては頭が痛いこと。

 

月初の営業会議で、営業担当者に「今月は何件の新規契約を取るつもりかい?」と尋ねると返事が返ってきません。

それでもしつこく聞くとしぶしぶ「1件です」との答え。

まさか「ゼロ」とは言えないし、多くを言ってもしできなかった場合に追及されるのも嫌。

仕方なく「1」という最低限の数字を出したのだと思います。まことにイラッとくる消極的な姿勢です。

 

営業と言う仕事は計画経済体制下では必要ありませんでした。1992年改革解放施策が打ち出されて以降に出現した職種で、営業理論や営業マネジメント手法などまだまだ根付いていませんでした。

少し大きな目標を設定して達成できずに叱責をされるより、小さな目標でやったほうが無難という考え方が当時は支配的でした。言われたことだけをやっていれば給料はもらえる、という具合に「余計にやろうとするよりも、事を控えた方が得だ」という考え方が当時のスタンダード。しかし、これを一歩抜け出さないと社員の成長も会社の発展も期待できません。

高めの目標がよい

会社既定の見積額で懸命の折衝努力をした結果、値引きを余儀なくされたというのなら別ですが、ゲームのような駆け引きだけの営業では成長できるはずもありません。

また、1カ月の新規契約取得目標を「1件」とすると、脳には「1」という数字が刷り込まれます。相応の努力をして「1」に到達したら目標達成したということになり、以降の活動は終了し「2」の可能性は限りなく少なくなります。

仮に目標を「3」とすると、脳から手足への指令も「3」となり、「1」の時に比べ遥かに活動量は増えるはずです。結果もおのずと異なってきます。

ひたすらの努力が可能性を開く

しかし、営業は相手あってのことですから、それでも結果は「1」や或いは「ゼロ」ということもあるでしょう。

その時に、日本のように頭ごなしに「何やってんだ!」「自分で言ったことくらいやってくれよ!」では、せっかく次月以降につながるはずの芽を摘んでしまいます。

「1」しか言わない営業員が多い中で、「3」を宣言したその勇気を称えるべきです。そしてその時の活動量は次月以降に必ず実を結ぶはずです。どちらが自己成長につながるかは明白。

 

慎始敬终

月初に営業員それぞれ個人目標を定め活動を開始、月の後半にさしかかるころには個人目標の達成目途が見えている社員は、目標に対し100%以上の成果を出そうと努力はしないようです。

例えば目標に対する達成率が「今月120%、来月80%」よりも「今月100%、来月100%」の方がよいという考え方で、自分で成果の出方をコントロールするのです。

未達成の時に叱責されることを避けるというのが営業員心理。

 

実は会社としても同じことが言えます。当月の予算達成が見えてきたら、来月のことを考えて今月はこの辺にしておこう…などと総経理は考えたくなります。

 

しかし、こんなことを繰り返していると「コップの中のノミ」になってしまいます。

もっとやろうと思えばできるのに、限界を自分で決めてしまっていては将来の自身の伸びしろを自分で摘んでしまうことと同じです。

慎始敬终」という最後まで気を抜かず手抜きもせずにやり通すとの中国古来の格言もあります。

どうなるかわからない「来月」の心配をして、実力の出し惜しみをすることなく、常に力を余さず発揮することが大事であると私は考えます。

総経理の腕次第

目標を高めに設定すること、気を抜かずにやり通すことを続けることによって社員達は成長し、会社の業績は拡大することは間違いありません。

そうして成長した社員はそれなりの役職や待遇を享受できることになり、大事な面子を上げることにもなります。

そうなると若い社員達も意気軒昂。好循環に入った手ごたえを感じるまでになりました。

 

力を出し切ってこそ「限界」が見えます。その「限界」という壁を上った時の苦労が次の成長への展望を開けてくれることを信じたい。

つまり「力を出し切った」という事実が、その社員自身に新たな可能性を創出してくれます。つまり、社員の成長に限界はないということです。

 

日本では当たり前のことでも、「セールス」の歴史が浅い中国では、社員に対して根気強く話し込まなければなりません。その匙加減は総経理(社長)の腕にかかっているのです。

ツボにはまったときの爽快感は忘れられません。

「中国ビジネス成功の決め手 現場目線で急所を解説」の目次はこちら

 

成功のヒント 中国のことわざ・格言

多一事不如少一事 / 事なかれ主義

◆中国語:多一事不如少一事   [ duō yī shì bù rú shǎo yī shì ]

◆出典:清·刘鹗《老残游记》

◆意味:事が一つ多いのは事が一つ少ないことには及ばない。事を余計にするよりも、事を控えたほうが良い、との意。触らぬ神にたたりなしという消極主義のこと。

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意气风发 / 意気軒昂

◆中国語:意气风发   [ yì qì fēng fā ]

◆日本語表記:意気風発

◆出典:三国·魏·曹植《魏德论》

◆意味:意気盛んであること。

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慎始敬终 / 始(はじめ)を慎(つつし)み、終(おわり)を敬(つつし)む

◆中国語:慎始敬终   [ shèn shǐ jìng zhōng ]

◆出典:礼記(表记)

◆意味:物事を、最初から最後まで気を抜かず、手抜きもせずにやり通すこと。

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小康 / 中流階層

◆中国語:小康   [ xiǎo kāng ]

◆「小康」と言う言葉は西周(紀元前1046~紀元前771)の時代に出現しているようです。

1992年改革開放に転じ、「小康社会」の建設を目標にしてきた。それが2000年に入り急激な経済発展とともに実現しました。

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