絶対に逃げ出さない覚悟を 腹をくくれ!「満身是胆」
例えば地震や台風などの自然災害、政情不安、カントリーリスクなど、
大きな出来事に見舞われることがあります。
現地に駐在をして会社を運営していて、そんな場面に遭遇した時に、
絶対に逃げ出してはなりません。
何があろうとも、自分の会社を守る、社員を守る、顧客を守る、
そういう決意に立つべきだと考えます。
腹をくくれ、ということです。
すると、不思議と心が落ち着き、打つ手が見えてきます。
そして、その姿は社員にどれほど頼もしく、誇らしく映ることでしょうか。
苦手なロビイングに参加
大連には当地に進出している日系企業で組織する商工会があり、会員間の親睦や情報交換など多くの活動をしていました。
私が大連に赴任した3年後の2003年3月、大連に駐在するある企業の方からその商工会の副会長になるよう要請がありました。私はロビー活動などは下手ですし、そんな柄ではなかったのですが、その先輩曰く、「1年交代で、次は貴方の番」とのことでした。また、同じ日系企業同士、何かとお世話になったりすることも多く、お受けすることにしました。
ご返事した後、よくよく聞くと、何人かいる副会長はそれぞれ副会長とは別にお役目があり、私の場合は、現地の日本人学校の理事会理事長を、とのことでした。当時はまだまだ大連に不慣れなことも多く、まして本業の方は決して順調というわけでもありません。そんな不安を抱えてスタートしたのですが、いきなり重要対応案件が発生しました。
SARS対応で右往左往
その前年の11月に広東省で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)が2003年3月に大連に飛び火したのです。
SARSは中国では「非典」(非典型肺炎)と呼ばれていました。マスクを着けて仕事をする我々日本人に対して、当時マスク着用の習慣のなかった現地の社員たちには奇異に映ったことだと思います。
担当する活動が始まったばかりの日本人学校の方では、当たり前のことですが生徒たちにもしものことがあってはならず、理事会として大急ぎでその対応をしなければなりませんでした。
しかし、ちょうどその頃は年度替わりの狭間で、理事長の私以外はまだ一人の理事も選出されていませんでした。
やむなく、私は学校長と協議しつつ緊急の対応することを強いられたわけです。
一時帰国する子供さん、SARS終息後に日本人学校に復帰する際の対応など、新米理事長の私には結構こたえました。
一方、本業の方では、現地企業としての対応があります。家族帯同の日本人社員については、その家族は一時的に帰国させることにしました。ただ、可哀そうなことに帰国後一定期間、会社の保養所に「隔離」されました。その奥さまは、まるで「ばい菌」扱いだと憤慨していました。
当時はそんな話が他の会社でもあったようです。それに日本では本社社員に対し中国への出張を禁止する指示が下り、誰も来なくなりました。まるで「危険地域」扱いです。でも私たち駐在員は、その「まるで危険地域」で仕事をし生活していたのに…。
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命を懸けて「守る」
現地の日系企業の一部には駐在社員自身も一時帰国するところもあったやに聞きました。しかし、私の会社には多くの現地社員がいます。
もし、駐在している我々日本人が一時的であろうと帰国したら、彼らはどう思うでしょうか。
敵前逃亡と思われても仕方ありません。SARSが終息し、日本から現地に戻った時にどんな顔をして彼らに接すればよいのか。
まして多くの顧客に対応する責任者として、現場から退避することなど私には考えられませんでした。
たとえ、日本本社から支援がなくても、自分の周囲から日本人がいなくなっても、ここで頑張るぞ、との意気でした。
三国志の中に、たった一騎で曹操軍と対峙し、微動だにしなかった趙雲をさして「満身是胆」と感嘆したというくだりがあります。自分では自身のことを、そのように思っていました。
現場から退避するなど微塵も見せず、腹を据えて会社を守る、社員を守る、顧客を守るとの陣頭指揮を執りました。
とかく現地社員からは日本人駐在社員に対して、「どうせ腰掛」と思われがちです。日頃の行動はもちろんですが、特に「いざ」という場面での駐在員の態度・姿勢は強烈に印象付けるはずです。
腹をくくる
腹をくくると、不思議と心が落ち着き、打つ手が見えてくる。そして、その姿は社員にどれほど頼もしく、誇らしく映ることでしょうか。
その後2年間にわたり商工会や学校の活動を手弁当で行いました。本業と掛け持ちでしたので大忙しで大変でしたが、でも日中双方の様々な方々と親しくさせていただき、よい思い出になりました。そして何より、結果的に本業にもずいぶん役に立ったと思っています。
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▮▮▮ 中国ビジネスの成功を勝ち取る ことわざ・格言を解説 ▮▮▮
满身是胆 / 満身これ胆なり
◆中国語:满身是胆
◆中国語発音:[ mǎn shēn shì dǎn ]
◆日本語表記:満身是胆
◆出典:《三国志•蜀书•赵云传》
◆背景:蜀の将軍の趙雲(字は子龍)は、曹操軍が本陣まで追撃してくると、その陣門を開き、たった一騎で曹操軍と対峙した。
曹操軍は微動だにしない趙雲に恐れをなして撤退した。このことから劉備は「子龍は満身これ胆である」と感嘆した。