ロックオンしたはずなのにされていた… 中国のことわざ【螳螂捕蝉】のからくり

2000年4月に私は大連に赴任しました。まずは乱れていた社内の立て直しに着手。思いのほかそれが順調に推移し、3か月目頃には社内組織の整備や改革に乗り出すまでになっていました。そうすると市場開拓にも目が向くようになり、「さあ、これから」という時に当局から突然の文書通達が… そこには驚きの内容が書かれているではありませんか!

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左手で拳、右手で握手

 その内容とは「外国独資企業は許可された範囲以外の業種について、新規の顧客を開拓してはならない、そして現行ユーザーとの契約を更新延長してはならない」というもの。つまり部分的であるとはいえ業務停止命令書です!

大連の我が社は1993年に地元政府傘下の国営企業との合弁企業として設立されました。ところが1998年ごろの政府通達により、相手方が合法的に合弁を維持できなくなり、その影響で、我が社は日本独資企業にならざるを得なくなり、2000年の年初に変更登記をしました。

その頃、合弁企業として持っていた大得意先が、やむを得ない理由とはいえ「外国独資企業」となったがために、大得意先の維持に大きな影響が出ることになってしまったのです。

 実は、我が社の競争相手は政府機関の子会社で、しかもその政府機関は私たちの業界に対する許認可の権限も併せ持っていました。とても分かりにくい構図ですが、監督官庁と右手で握手しながら、市場では左手の拳を振り上げながら、その監督官庁の子会社と争っていました。当時は既に市場競争社会になっていたとはいえ、現実には正当な競争とは程遠い状態でした。

 もともと日中合弁企業であった我が社が、国の政策の影響でやむなく合弁を解消し、独資企業に変更していたわけで、決して自ら独資を選択したわけではありません。にもかかわらず「業務停止」とはいかにも理不尽ではないかと一旦は抗議しましたが、市条例に書いてある以上、やむを得ないとの当局からの回答でした。外商独資企業として企業そのものの存続は問題ないのですが、条例により企業としての活動範囲が合弁企業のそれよりも著しく制限されてしまい、企業業績に多大な影響が出ることが避けられません。頭の痛くなるカントリーリスクに立ち往生してしまいました。

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堂堂の陣、正正の旗

 社内の立て直しに一定の目途が立ち、私の目は市場に向いていました。ところが思いもしなかった「敵」が背後から迫ってきた、というところでしょうか。戦いは相手と対峙し正々堂々とするものだと思っていましたが、実は如何に相手を陥れ、自軍を有利に導くか、というのが中国古来の兵法です。

孫子曰く「堂堂の陣、正正の旗」とは「正々堂々」の語源になっているのですが、堂堂と、整然とした軍と真正面からは争わずに変化せよ、と私には読めました。つまり、ここには「正々堂々」と戦うことなどは最初から無いということです。

 いずれにしても企業としては業績に大きく影響し、ひいては存続にかかわる大問題です。中国人スタッフとともに対応を重ねましたが、打開策は見出すことはできませんでした。 そんな状態が半年ほど続き、心配した一部の社員からは会社は大丈夫か、と私に詰め寄ってくる社員も出てきました。

 最悪の事態に至った時、私は日本に戻ればよいのですが、逃げ場所のない彼らにとっては死活問題であったわけです。その気持ちはよく理解はできるのですが、現実として解決の目途がなく、ただ「私を信じてもらいたい」と話すことくらいしかできませんでした。

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螳螂捕蝉,黄雀在后

 私は積極的な経営には「社内の幹部社員」と「社外協力者」が重要なファクターであると考えていました。そして上海での勤務経験をとおして大連着任後、時を置かずしてその二つのチャネルを持つことができていました。

しかし、今回の「事件」によって後方の備えに当たるチャネルが欠け落ちていたことに気がつきました。中国のことわざには「螳螂捕蝉,黄雀在后」とあります。つまり「螳螂は蝉を捕まえようとしているが、その後ろには黄雀が蟷螂を狙っていた」というのです。

 もしも、事業が好調に推移していれば、一方ではそのことを好ましく思っていない人が必ずいるものです。彼らはあなたの背後にいて、虎視眈々と狙っているかもしれません。いや、狙っているのです。中国での戦は「正々堂々」などときれいごとは言っていられないのです。好調な時ほど、背後に細心の注意を払うべきだと言えます。敵から身を守らなければならないのに、前ばかり見ていたのでは命取りになります。

 その後、新しい事業パートナーを見つけることができ、改めて合弁を組むことができました。そして新体制のもと事業の急拡大にひた走ることになりました。

 それにしても、その難題を突き付けられたときは、着任後わずか3カ月のことでした。しかしながら、この問題が表面化した後も、このことが原因で退職した社員は無く、契約を解約したユーザーはほんの一部にとどまりました。それどころか、顧客の大半は取引を維持、あるいは以前に増して拡大していただきました。本当にありがたい限りでした。それに、安心して事業ができることのありがたさを痛感しました。「後ろ備え」を十分に!

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

螳螂捕蝉,黄雀在后 / 螳螂は蝉を窺い、黄雀が後に在り

◆中国語:螳螂捕蝉,黄雀在后   [ tang láng bǔ chán, huáng què zài hòu ]

◆日本語表記:螳螂捕蝉、黄雀在後

◆出典:説苑(ぜいえん)

◆意味:カマキリがセミを捕えようとしているが、その後ろには鶸(ひわ)がいてカマキリを狙っている。目の前の利益に夢中になって、後ろから近づく災いに気がつかないことの例え。

◆黄雀は鶸(ひわ)のことで、スズメ目アトリ科に属する鳥。(カワラヒワ、マヒワ、ベニヒワ、ベニマシコ、イスカなどの総称)

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堂堂之阵,正正之旗 / 堂堂の陣、正正の旗 

◆中国語:堂堂之阵,正正之旗   [ táng táng zhī zhèn,zhèng zhèng zhī qí ]

◆出典:孫子(軍争)

◆原文:「无邀正正之旗,勿击堂堂之陈,此治变者也」(正正の旗を邀(むか)うる無かれ、堂堂の陣を撃つ勿れ、此れ変を治る者なり)

◆意味:軍の陣容が整い勢いが盛んなこと。「正々堂々」の語源。原文の最後には、敵の行動に応じて変化せよ、と言っています。

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