中国のことわざ【事上に在って磨くべし】 自分を高める大事なものは本社には無い

若い頃、国内で単身赴任中の私が帰省する日の夕刻、「駅まで車で送ってやる」とトップから声をかけられました。てっきり運転手さんが送ってくれるものと思いきや、そのトップ自ら運転してくれたのです。別の日には転勤する私の送別会の二次会で、「今日は朝まで飲もう!」と。また別の上司は、私が中国に赴任することが決まった時、「お前の骨は俺が拾ってやる!思いっ切りやってこい!」と。

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善く将たる者は愛と威とのみ

 ひとつは約30年近く前のこと、もう一つは約20年前のことです。今もその言葉やシーンは鮮明に脳裏に焼き付いています。ごくごく普通のサラリーマンであった私は、上司からそんな風な言葉をかけられ、もうたいへん… 心底から感動しその上司のためなら何でもやろうと奮い立ったことを覚えています。

 当時のことから考えると、人というのは決して論理だけで動くのではなく、むしろハートで動くのだと結論付けられると思います。なるほど昨今、成長を続けている日本の企業のリーダーの方々には、強いリーダーシップを持っているのはもちろんですが、一方では、相手に「感情」を訴える説得力を持っていることが共通しているように思えます。

 つまりドラスティックに強権を振りかざすのではなく、感情の動物と言われる人間にはむしろ、相手の感情に訴えかけるのがよいということが言えます。そういったリーダーシップが強い組織を作るのだということではないでしょうか。

中国古典の尉繚子には「善く将たる者は愛と威とのみ」とあります。部下を愛しむ心と部下に対する威厳の両方が必要でいずれか一方だけではうまく成功できないというのです。

 「愛」はハートに訴えること、「威」は論理的な厳しさで、と理解できると思います。この二つをその時々に応じてとりまぜて発揮することで人心を掌握し強い組織が出来上がるというものです。そして私の経験値からはハートが8割、論理が2割といった匙加減がよいのではないかと考えます。そうすると、リーダーと皆の間でストーリーが共有でき、そして組織として一体感が出てきます。いくら正しくても、「論理」だけでは人は動かない。どうしても感情に訴える力が必要であるということです。

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事上に在って磨くべし

 中国における最前線の組織運営者として、期待される最大の効果を引き出すにためには、当然「リーダーとしてのツボ」を会得しそれを外すことはできません。日本とは違う中国ならではというものもたくさんあります。そういったツボを身につけるには、自分自身を磨き感受性を高める必要があります。

ではどうすれば自身を磨くことができるのか。

 中国古典には「人はすべからく事上に在って磨くべし」との格言があります。日本には多くの関連書籍があり、それらを読み学ぶことももちろん大事なことではあります。しかし日本人が習慣も考え方も異なる中国の地で自身を磨き高めるには、何と言っても中国で実際のことに当たってこそ自身を磨くことができるのではないでしょうか。つまり、現場でこそ自分を磨くことができるとの格言です。人は人の中でこそ磨かれるのです。

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断じて敢行する

 経営学者のピーター・ドラッカーは「リーダーシップは賢さに支えられるものではなく、一貫性に支えられるものである」と語っています。私は「一貫性」とは「ぶれない心」だと思います。何事もぶれずにやると、現地の従業員の皆さんも安心して仕事に励んでくれます。反対に、リーダーがぶれてしまうと、部下社員たちは不安感が増し、仕事もおざなりになってしまいかねません。

 孟子は言っています。「己を枉ぐる者にして能く人を直くする者はあらず」と。自分を曲げて相手に迎合する人に立派な指導者はいないというのです。やはり、一貫したぶれない心は成功する上で重要な一つのポイントです。

また、古くは「断じて敢行すれば、鬼神も之を避く」とあります。強い決意が大切であることがわかります。鬼神も道を開けるほどの強い決意による行動の向こうに成功が有るとの格言です。リーダーたる者は強い決意によるぶれない心で邁進することは、今も昔も変わらないリーダーの条件ではないでしょうか。

 中国の現法や個人で起業した事業など例え大規模ではなくても、現地社員やマーケットをマネジメントするには、目の前にある現場で自身をみがき高めることが何より大事であります。

「中国ビジネス成功の決め手 現場目線で急所を解説」の目次はこちら

成功のヒント 中国のことわざ・格言

断而敢行,鬼神避之 / 断じて敢行すれば鬼神も之を避く

◆中国語:断而敢行,鬼神避之   [ duàn ér gǎn xíng, guǐ shén bì zhī]

◆出典:史记(李斯列传)

◆原文:断而敢行,鬼神避之,后有成功。(断じて敢行すれば鬼神も之を避け、後 成功有り)

◆意味:強い決意のもとには何ものも妨げるものがない、という例え。

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善将者爱与威而已 / 善く将たる者は愛と威とのみ

◆中国語:善将者爱与威而已   [ shàn jiàng zhě ài yǔ wēi ér yǐ ]

◆出典:尉繚子(うつ りょう し)

※『尉繚子』は、中国の戦国時代に 尉繚 (うつ りょう)によって書かれた兵法書です。武経七書のひとつ。

◆原文:爱故不二,威故不犯,故善将者爱与威而已。(兵を大切にするから兵に二心がない。威厳があるから兵は命令に背くことはない。故に善い将は愛と威を併用するのみである)

◆意味: リーダーは地位や強権を使えば部下を命令に従わせることができる。しかし、それだけでは「心服」は得られない。「愛」をもって接すれば部下のやる気を引き出し、よい仕事ができる。いずれかの一方だけではリーダーとしての責務が果たせない。

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人须在事上磨 / 人はすべからく事上に在って磨くべし

◆中国語:人须在事上磨   [ rén xū zài shì shàng mó ]

◆出典:(明)王阳明(传习录)

◆意味:自分を磨くには先達の教えに耳を傾けることも大事だが、それだけでは生きた知恵が身につかない。書物で学んだことを身につけるには結局、実際のことに当たりながら自身を磨くことが必要である。事上とはまさに現場です。

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枉己者,未有能直人者也 / 己を枉ぐる者にして未だ能く人を直くする者はあらず

◆中国語:枉己者,未有能直人者也   [ wǎng jǐ zhě, wèi yǒu néng zhí rén zhě yě ]

◆出典:孟子(滕文公章句下)

◆日本語読み:己を枉(ま)ぐる者にして未だ能く人を直(なお)くする者はあらず

◆意味:自分の持っている原則を曲げて相手に迎合する人に立派な指導者はいないとの意。妥協することも必要だが、譲れない一線は断固として守りとおす心構えが必要である。

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