中国にも【負けるが勝ち】ということわざが それって現実に役に立つであろうか…

 ある時、出先から意気揚々と戻ってきた我が社の若い社員。「顧客と議論して勝ったぞ!」と喜色満面。
呆れながらも「お客と議論してどうする?」とたしなめました。負けたのならまだしも勝って帰って来たのに…といぶかしげな面持ちの彼。

人多手雑

 中国では屁理屈も含めて、理屈っぽい人、弁の立つ人がとても多い。とにかく彼らは議論好き。そして、議論に勝つことに快感を覚えるようです。そんな中国で仕事をしていると、合弁パートナー側や社内の社員との間で、議論、討論をする場面がたびたびあります。

 

 私が1998年に赴任したのは、設立されて4年ほど経過した上海の合弁会社でした。

4年もたっているのにまだ1元の利益ももらっていないと、口を開けばそう文句を言っている上海地元のパートナー。何故利益が出ないのか、悪いのは経営を主導する日本人であると言わんばかりに議論を仕掛けてきます。

我が社の性格上、利益が出るまで5~6年かかりますので、それまでは赤字決算なのですが、そんなことにはお構いなしです。中国側の出資者の多くは合弁企業が立ち上がった次の日にでも利益は出る、くらいの思いを持っていますので、4年も利益を享受できないことにいら立っているのです。

 更に複雑だったのは、日本本社が北京に設立したグループのホールディング会社から派遣されてきていた経営幹部の評論家のような存在であったことです。
 上海、北京、日本の三者がそれぞれの利益代表として口を出し指図するバラバラ状態。中国のことわざにある「人多手杂」、物事がまとまらずどこに向かうのかわからない状況にありました。船頭多くして船山に上るという状況でした。

 そんな状態で、お互いに口を開けば相手への悪口三昧。本来中国市場の開拓に注ぐべきエネルギーは社内でくすぶっていました。そんな状態では、会社運営を行う幹部に団結も何もあるはずはなく、中国ビジネスが成功するわけもありません。

呉越同舟

 出身母体はそれぞれ異なっていても、皆が同じ一つの会社の運営を担っているというのに、なぜこんなに揉める?

 孫子は「呉越同舟」と、仲の悪い者同士であっても、いざという時には助け合うものだという言葉を残しています。そこで、日本、上海、北京を代表する三者がバラバラの現状から脱して、成長軌道に会社を乗せるため、正面からの議論を持ちかけました。負けてはならない論戦です。

 仲の悪い三者が同じ一つの船に乗っている。互いの思いや考え、担当する職務は違っていても、同じ船に乗っているのです。

 そして、目指す方向に船が向かわなければ他の乗組員(社員)が大変なことになってしまう。出身母体の違いを乗り越えて、多くの社員達と一緒に乗っているこの船が、ちゃんと目的地に到着できるようにリードし、運営に努力をしてもらいたい、と。

 誰にも反論できない「正論」をもってそう訴えました。もちろん誰からも反論はなく、社内も落ち着きを取り戻しました。

ああ言えばこう言う

 日本では「負けるが勝ち」と、その場を収めることもビジネスシーンでは多くあります。中国にも「以退為進」(前進のために退く)という同義の言葉があるにはあります。

 しかし現代中国の現場ではそのような考えはまったくと言っていいほどありません。相手が合弁相手方であれ、自社の中国人社員であれ理論や議論で負けてしまっては、その後、力関係で不利を招き、場合によっては制御不能の事態となりかねません。

 ですから唾を飛ばしながらの論争になった場合でも、中国の現場では一歩たりとも退いてはなりません。もちろん恫喝したり大きな声を出すのではなく、どこまでも冷静に、理路整然と。たとえ理屈をこねてでも負けてはならないのです。「ああ言えばこう言う」と勝てる論戦を張る訓練を常に心がけるべきでありましょう。

 

 論争好きが多い中国社会で、相手に議論で負けないための心得は三つ。

・正論に勝るものはなし。自社の経営理念は錦の御旗。日頃から周知させておくべき。もし、会社理念がなければ自分で作ればよい。

・自他共の精神で。自分の利益だけを考えたのでは相手の納得は得られない。

・相手のメンツは守る。これをおろそかにすると相手は承服しない。

 それらのツボは、総経理(社長)自身が必死に頭を巡らし、誰もが納得する具体的な理論を考え展開しなければなりません。その理論はきっと合弁当事者の双方に幸福をもたらすことになります。極論すれば中国市場を開拓する合弁企業の成否は総経理にかかっています。

 自他共の精神で誰もが納得する理論武装は、合弁の基礎を強くすることになり、中国ビジネス成功の背骨でもあります。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

人多手杂 / 人多く手が雑(船頭多くして船山に上る)

◆中国語:人多手杂   [ rén duō shǒu zá ]

◆出典:红楼梦

◆意味:手を付ける人がやたらと多くいること。船頭多くして船山に上る。

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吴越同舟 / 呉越同舟

◆中国語:吴越同舟   [ wú yuè tóng zhōu ]

◆出典:孫子(九地)

◆意味:もともと呉の国と越の国の人達は互いに憎み合っていたが、たまたま同じ船に乗り合わせ、途中で大風に遭遇したような場合には互いに協力し助け合う。

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以退为进 / 退くをもって進むとす

◆中国語:以退为进   [ yǐ tuì wéi jìn ]

◆日本語表記:以退為進

◆出典:揚雄(法言·君子)

◆意味:負けるが勝ち

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唱反调 / 異論を唱える(ああ言えばこう言う)

◆中国語:唱反调   [ chàng fǎn diào ]

◆出典:向春(煤城激浪)

◆意味:完全に対立する言論を発表すること。ああ言えばこう言う。

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